「体験価値の創造をビジネスにする法」 B・ジョセフ・パインⅡ世 ジェームズ・H・ギルモア【ハーバード・ビジネス・レビュー】 [書籍・雑誌]

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「体験価値の創造をビジネスにする法」
  B・ジョセフ・パインⅡ世 ジェームズ・H・ギルモア(共著)
  飯岡美紀(訳)

■経済発展の新たなステージ
 経済はどのように推移するのだろうか。経済発展の歴史を、バースデーケーキの4つの進化段階に置き換えることが出来る。
 農業経済の名残りを留めていた頃、母親たちは農産品(小麦粉、砂糖、バター、卵)を混ぜ合わせて、バースデーケーキを手作りした。材料費と言えば、全部でほんの何十セントだった。
 工業が進展すると、一ドルか二ドル出してベティークロッカーのケーキミクスを買った。その後、サービス経済が定着すると忙しい親達は、ケーキ屋などに10ドルから15ドル程度の値段のケーキを注文するようになった。箱入りケーキミクスの10倍近い値段である。
 そしていま、時間に飢えた1990年代の親達は、バースデーケーキをつくるどころか、パーティさえひらかなくなった。その代わりに1000ドル以上払って、チャック・E・チーゼズや、ディスカバリー・ゾーン、マイニング・カンパニーなど、子供たちの思い出に残るイベントを演出してくれる(しかも、多くの場合、ケーキを無料でサービスしてくれる)会社に誕生日ごと ”アウトソーシング”してしまう。台頭する「体験価値の経済」へようこそ、ということなのである。
 経済学者は従来、体験とサービスを区別せずに扱ってきたが、体験はれっきとした経済的提供物であり、サービスが財とは異なるように、体験もサービスとは異なる。
 今日では、この体験という第四の経済的提供物について認識し、また議論することが可能になっている。なぜならば顧客が体験を欲していることに疑問の余地はなく、それを企画し、売り込む企業もどんどん増えていることは明らかだからだ。
 サービスがかつての財と同様、ますますコモディティ化するのに伴い(たとえば長距離電話のサービス料金だけを売り物にしている現状を考えてみればよい)、筆者の言う「経済価値の進歩」における次の段階として体験価値が台頭してきている。今後、最先端を行く企業は,
販売する相手が消費者であれ企業であれ、次なる競争の部隊が体験の演出であることに気づくだろう。
 体験は漠然とした概念ではない。それは、サービスや財などと同様に、きわめて現実的な提供物である。今日の経済においては、従来の提供物の販売を伸ばすために表面的に体験の要素を加えているだけ、という企業が多い。だが体験演出するメリットを利益に変えるためには、企業は知恵を絞って魅力ある体験を企画し、これに料金を課す必要がある。
 サービスを売ることから体験を売ることにへの転換を果たし、経済の変化の波を乗り切ることは既存企業にとって、前回の工業経済からサービス経済への一大経済転換に匹敵するくらい困難なことであろう。しかし、コモディティ化した事業にとどまるつもりでない限り、自社の提供物を経済価値の次の段階へとアップグレードせざるを得ないのである。そうなると、問題は台頭する経験価値の経済に参入するかどうかではなく、いつどのように参入するかである。体験の特性や体験演出の草分けたちの企画の本質を早い段階で見ておくことで、この問題に答えるための糸口が示されるだろう。
 
■売れる体験を演出する
 サービスと体験の違いを正しく認識するためには、テレビの古いコメディ番組「タクシ―」を思い出せばよい。この番組では、普段はどうしようもない(ただし陽気な)タクシー運転手のイギーが、世界一のタクシー運転手になろうと決意する。
 彼はサンドイッチと飲み物を振る舞い、市内の名所巡りをし、フランク・シナトラの曲まで歌う。何の変哲もないタクシーでの移動を、思い出深いイベントに変えて顧客を魅了することによりイギーは、全く別のあるものーつまり別個の経済的提供物ーを創出したのである。
 顧客にとって彼のタクシーに乗るという”体験”は、タクシーで運ばれるというサービス以上に価値あるものであり、少なくともこの番組の中では、イギーの客たちは大喜びでチップをはずんだ。ある客などは、楽しみを引き伸ばしたい一心で、ブロックをもう一回りしてくれと頼み、単なるタクシー輸送というサービスにより多くのお金を支払いさえした。
 
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 プレーヤー・ゲーム、シミュレーター、バーチャル・リアリティといった全く新しいジャンルの体験が可能になったのである。
これまで以上に人を没頭させる体験を演出するためには、より大きな情報処理能力が求められる。そして、いまやこれがコンピューター産業の財およびサービス需要の原動力になっている。インテルのアンディ・グローブ会長は1996年11月のコンピューター展示会コムデックスに於ける講演で、こう宣言した。「私たちは自分たちのビジネスを単なるパーソナル・コンピューターの製造・販売以上のものと考える必要がある。私たちのビジネスは情報と真に迫った双方向体験を提供することだ。」
 ハードロック・カフェ、プラネット・ハリウッド、ハウス・オブ・ブルースといったテーマ・レストランでは食べ物は所謂「イーターテーメント(eatertaiment)」の小道具に過ぎない。またナイキタウンやカベラス、レクレーショナル・イクイップメント・インコーポレーテッドといった店は、楽しい催しや魅力的な展示、販売促進イベント(「ショッパーティメント(shoppertaiment)やエンターテイリング(entertailing)と呼ばれることもある。」を提供することにより消費者を引きつけている。
 だが、体験はエンターテイメントに関わるものばかりではない。企業は個人的な,記憶に残るやり方で顧客を引きつけている時には、常に体験を演出しているのである。
 航空機産業では、英国航空の元会長であるコリン・マーシャル卿が「コモディティ・ビジネス的な考え方」とは「単にある機能を果たすこと(英国航空の場合には、できるだけ安い料金で人々をA地点からB地点へと既定時間通りに輸送すること)をビジネスと考える」ことだと述べている。コリン卿によると、英国航空がしていることは「そうした機能を超越し、体験の提供で勝負すること」だという。(「カスタマー・サービスの向上が競争戦略のすべて」


ほんもの

ほんもの

  • 作者: J . H . ギルモア
  • 出版社/メーカー: 東洋経済新報社
  • 発売日: 2009/12/18
  • メディア: 単行本



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