技術進歩がもたらす社会への影響。たとえば、写真業界。 [書籍・雑誌]

 何も今思いついた事ではないのだが、時々考えるテーマであり、最近マイブームになったので記事にしておこうと思う。タイトルにも写真業界。と書いたがこれは、写真に関してのみ起きている話ではなくあらゆる事に起きていることだと思っていただきたい。
 (では、なぜ写真にスポットを当てようとおもったか?それは、この本との出会い。友人がカメラ、写真好きでこの本を話題にしていたのでその影響を受けたというところ。そういうちょっとしたキッカケだ。)


トップアスリートの決定的瞬間 その舞台裏では何が起きていたのか?

トップアスリートの決定的瞬間 その舞台裏では何が起きていたのか?

  • 作者: 西山 和明
  • 出版社/メーカー: PHP研究所
  • 発売日: 2012/07/19
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



著者は、Numberの専属カメラマン西山和明さん。とあって、ドラマティックな瞬間を見事に捉えたときの話が満載。その出来事の裏話や、ちょっとした事だが知られていない事実等が興味深く書かれている。なによりもグッとくるのが、被写体となったトップアスリートたちの人物像に迫っているところだ。このような感動をさらに印象づける話が満載なのだが、もう一つ大切な事が語られていた。カメラという道具とカメラマンの関係についてだ。

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 AF(Auto Focus)の出現、発達とフィルムカメラからディジタルカメラへの移行。これらによって写真の撮り方は勿論、撮影後の作業の流れ、時間の使い方などを変えたのと同時に撮影シーンの選択にも大きく影響を与えたことを教えてくれた。

 きっと今後も技術の進歩は、我々の生活を便利にしてくれるだろう。そのなかで職業としてプロとして求められていたスキルも素人が簡単に手に入れられるようになる。そのなかでプロフェッショナルに求められる要素が変わるのだろうと気づかせてくれた。写真の世界で言うならば、写真撮影の技量以上に被写体への理解とコミュニケーションがどれだけとれるか、いかに関係性を構築するか維持するか。がより重要にかつクローズアップされる時代になっていくのだろう。それはなにもスポーツの世界に限ってはいない。野生動物、ドキュメンタリー写真なども写真撮影の技術以上に専門知識が問われる。動植物の生態をどこまで知っているか、それによって普通では撮れない映像を捉える可能性が変わってくる。勿論、生態を知るだけではダメで、その場に居合わせる、出くわすための努力、エモーションが不可欠なのは言うまでもない。
そういうことを感じさせてくれる一冊だった。

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西山さんご自身でも思入れが深い写真のなかの一つがこれ。このシーンを撮るために様々な努力と、運が必要だったと書かれている。


 改めて本題を多少、俯瞰的に語ってみたい。
 技術は、そもそも世の中の人を幸せにするために存在していると思っている。重労働を軽減したり、簡単に手に入らなかったものが大勢の人に行き渡ったり、一部の人に限られていた感動を大勢が分かち合えるようになったり。そういう事の為にあって欲しいし、そういう使われ方がされている事例をもとに考察してみたい。
 例として取り上げた、写真、写真業界。写真にも長い歴史がある。といっても僕自身そんなに詳しくない。ネットや本を頼りに調べてみた。多少の誤解はご容赦願いたい。ポイントは、技術が新たなライフスタイルを産み、職業をつくり出して来た。もしくは、変化させた。そういうことが良くわかる。

 100年単位での出来事とここ約25年間で起きたことに分けて表現するとよりわかり易い。
【1800年代に起きたこと】
1800年代この100年間で写真技術は大きく進歩し、それにより写真の撮り方だけではなく、あらたな写真にまつわる職業(写真館)なども生まれ、一般人のライフスタイルにも直接影響を与え始めた。(露光時間の短縮)。また、フィルム化、それをカートリッジ化することで携帯性、機動性が生まれジャーナリズムが格段に進歩したのもこの時代。感光感度の変化による露光時間の劇的な短縮。明るいレンズの開発と、シャッターの導入による見えなかったものの可視化、携帯性の向上。これにより映画産業が派生していく。技術は、より多くの人を幸せにしていると実感できる出来事ではないだろうか。
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【1986年頃から現在(約25年間)】
ここ25年間で起きていることを見事に表現しているのが、内田和成さんのこの事業連鎖で考えよ。だと思っている。内田和成(著)『異業種競争戦略』(日本経済新聞出版社 2009年)より抜粋

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写真を楽しむという行為は、撮影→記録→現像・焼き付け→保存・鑑賞→送付 というプロセスを踏む。ただしくは踏んでいた。ただし、技術の進歩・発展にともない、撮影という行為がカメラとフィルムであったものが、いまは、デジタル化されることで、デジカメとメモリーに置き換えられた。と同時に、現像・焼き付けという概念がなくなり、プリントのみ。もしくは、保存、鑑賞にいたっては、プリントのみならずTVや、PCなどで楽しむというスタイルが加わっている。  直近で言えば、スマホの出現。撮ったものをすぐに(いつでも)どこからでも共有出来る。撮ったものは、将来のために保存したい。という欲求とともに、友人知人に見せたい。共有して自慢したい。などという欲求にぴったりハマっている。それによりユーザーたちのライフスタイルにも大きく変化をもたらしている。その共有の場がFacebookに代表されるSNSだったりする。SNSとの親和性と、そしてカメラとしての使い勝手楽しみ方の充実が このMovementを後押ししていることがいま起きていることだ。  話は、逸れるがスマホという商品カテゴリーに関して触れておきたい。 「スマホを携帯電話の一つ。進化形」と言う見方では、 発想が広がらない。理解が深まらない。 スマホは、 「インターネットで出来ることを いつでも、何処でも出来るようにした(可能にする)」 モバイル・インターネット・ツール。携帯電話だと思わないこと。PCにより近い存在だ。 そう考えると、市場規模拡大の可能性も今後の業界の展開も見えやすくなる。 話戻して、写真業界へ。ここ最近の25年間の話をプロフェッショナルの世界に関して触れてみたい。先出しの西山和明さんによれば、プロはほンの15年弱前までは、フィルムカメラを使っていたそうだ。西山さん自身も1997年11月のワールドカップ予選、日本対イラン戦は、フィルム主体で撮影。デジタルも併用していたそうだ。あの試合も90分で終了していれば、フィルムでも間に合ったのだが、延長になると現像作業も含めて考えると間に合わない。結果、90分間はフィルム撮影。延長はデジタル撮影をしたとか。前半の中山選手のゴールはフィルム、決勝となった岡野選手のゴールは、デジタル撮影だった。  2000年のシドニーオリンピックは、デジタルとフィルムが半々。2002年の日韓合同ワールドカップは、ほぼデジタルに移行していたそうだ。 続けて、西山さんの著書によると、  デジタルの利点は、その場で撮った写真をすぐに見れること。表情や動きを試合の中でチェックしながら撮影が可能になる。また、パソコンで明るさを調整したり、フレーミングを変更するのも簡単。オートフォーカスの普及がピンとに対する意識を変えた、無くしたのと同じように、デジタルカメラの普及は露出への意識を変えた。フィルムのころは結果として昼間の試合のものを採用されることが多かったが、デジタルではそういう違いはなくなった。光の状態を気にせずに安定的に撮影出来る利点をデジタルは持っている。加えて、重要な変化は撮影枚数への意識。フィルムの頃は、1本36枚撮り。試合の途中に何度もフィルム交換をする必要があった。それを意識しながらのこりフィルムコマ数を考えながら写真撮影をしていたが、デジタルになったことで意識しなくなった。海外への撮影時にも100本単位でのフィルムを携帯していた。そいう負担が減った。その分、撮影の枚数は増え、PCでの作業は増えている。    ここから言えることは、ただ、楽になるということ、便利になるということは職業としてのカメラマンの役割とかバリュープロポジションも大きく変化せざるを得ないことを意味している。プロのような技術を有しなくても、同じとは言わないまでもそれに近い映像を素人でも撮影出来やすくなってきているということでもある。  突き詰めて表現すると、プロカメラマンの凄いところは、そのシーンを写真に収めるための場に居合わせることが出来る。ということ。(あるプロカメラマンから直接聞いた言葉。)たとえば、篠山紀信さんがなぜあの宮沢りえのSANTA FEを撮影できたかというと、彼がその場に居合わせて撮影の依頼を受けたからである。いくら腕があってもダメというわけだ。勿論、そのチャンスを得るためにはそれまでの彼の実績が無いとなかったわけだが。(そういう部分にクローズアップした番組が今夜9月9日(日)23時〜23時30分TBSで放映される予定になっている。それを見てまた理解を深めたい。)  この事例も紹介しておきたい。2012年8月30日20時〜 NHKで放送「仕事ハッケン」その日は、レッド吉田さんがスポーツ報道カメラマンに挑戦していた。1週間真剣にスポーツ報道(プロ野球)に取り組んでいた。いろいろ苦労の結果、彼の撮影した写真が幾つか採用され記事になった。確かに、かれは高校野球児で甲子園にも行った経験をもちあわせている。だからこそ、ピッチャーがボールをリリースする瞬間を捉えることができただろうし、野球選手の気持ちも分かる。反面、写真の素人。これがAutoFocusが今のように発達していなかったころだったら、まず1週間でそんな写真が撮れるようにはなっていないはず。ピンとを合わせることすらできなかったろう。 スライド8.JPG 技術とカメラ以外の事にたいする専門性。このバランス、重要度の比率は変わり続けるのだろう。と思った。その変化の速度、ダイナミックさは、我々が経済の変化で感じているのと同じようなうねりを今後も続けるのだろうと思った。 スライド6.JPG 最後に、写真、カメラ撮影という作業は、釣りにすごく似ている。撮影する場所を選んで、そこに出向き、様々な条件がそろった上で運が良ければ撮れる。その際に最適な道具選びも重要。(写真でいうならカメラ、レンズ、フラッシュなどの機材選び。釣りなら竿、餌、仕掛けなどがそれにあたるだろう。)これも一種の因果律か。何かを突き詰めると、他の分野でも理解が早い。という理由のひとつなのかもしれない。 スライド7.JPG スライド5.JPG
Santa Fe 宮沢りえ

Santa Fe 宮沢りえ

  • 作者: 篠山 紀信
  • 出版社/メーカー: 朝日出版社
  • 発売日: 1991/11
  • メディア: 大型本
異業種競争戦略

異業種競争戦略

  • 作者: 内田 和成
  • 出版社/メーカー: 日本経済新聞出版社
  • 発売日: 2009/11/10
  • メディア: 単行本

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